【金子真仁カリフォルニア編Ⅳ】桃源郷で考える 人間記者とAIの未来/連載〈17〉

旅が好きです。日本の全市区町村の97・3%を踏破済みです。その遍歴は球界関係者に興奮されたり、どん引きされたり。かけ算の世の中、野球×旅。お気楽に不定期で旅します。題して「野球と旅をこじつける」。第14回は日本列島を飛び出して、アメリカ合衆国・カリフォルニアへ―。全5回でお届けします。

その他野球

地表を駆けるリスたち

観察眼が鋭いと褒められるのはうれしいけれど、たまに見てはいけないものを見てしまう。

熱気球が浮き、少しずつ離れているテメキュラの大地に皆が視線を落としているころ、私はなんとなく風下の方角を眺める。

「……」。

とんでもなく高い場所に熱気球がいくつか浮いていた。あれ、同業だよな~、これも、あそこまで行くんだよな~…なんて悟る。

それでも序盤は低いところを平行移動していた。地表を駆けるリスたちの動きも見える。やがて、なんとなく地面との距離が離れている気がして「あ、あのあたりは谷間なのかな」と思ったらそれは逆で、私たちの高度が徐々に上がっている。

気球はまぁ、高度100メートルとかじゃ面白くないし、300メートルとか500メートルくらいまでは上がるんだろうなと勝手に思って乗り込み、そんな高度はとっくに越えている。「…大丈夫?」。少なくともスタッフに慌てた様子はまるでない。

カゴ内には操縦士を含めて15人が立っている。シートベルトの類はない。私たちはカゴの1メートル四方少々のスペースに2~3人ずつ分かれて立っている。一応、つかまる場所はあるけれど、つかまることを目的としたものではない。

大谷翔平や佐々木朗希と同じ早寝で背丈だけはそれなりに伸びた私は、腰から上が無防備に空中にさらされているも同然だ。手汗びっしり。こうなればプロに命、委ねるのみ―。

ロサンゼルスから車で2時間 テメキュラ

ロサンゼルスから車で2時間ほどの街、テメキュラ。観光客への訴求力はワインだけにとどまらず、この熱気球もテメキュラ名物の〝二刀流〟と言えるだけの存在だ。ドジャースタジアムのような興奮はないけれど、静かなる感動がテメキュラにはある。

あれれ、雲の上まで来てしまった。「大丈夫なのかな…」と考えたところで、もはや自分ではどうにもできない。泣こうがわめこうが、気を失わない限りは私はしばらくとんでもなく高い場所にいざるを得ない。

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1980年11月、神奈川県座間市出身。法大卒、2003年入社。
震災後の2012年に「自転車日本一周」企画に挑戦し、結局は東日本一周でゴール。ごく局地的ながら経済効果をもたらした。
2019年にアマ野球担当記者として大船渡・佐々木朗希投手を総移動距離2.5万キロにわたり密着。ご縁あってか2020年から千葉ロッテ担当に。2023年から埼玉西武担当。
日本の全ての景色を目にするのが夢。22年9月時点で全国市区町村到達率97.2%、ならびに同2度以上到達率48.2%で、たまに「るるぶ金子」と呼ばれたりも。